つい先日のことだが、我がオフィスにもとうとうシャワー式トイレが導入された。世の中におけるシャワー式トイレの普及率を鑑みるに、まさに、遅蒔きながら、といった感が否めない。我がオフィスはそれなりに近代的なビルに入ってるというのに、なぜ今までシャワー式トイレが設置されていなかったのか、理解に苦しむところではある。が、今となってはそれはまあよしとしよう。いずれにせよ、その導入により、痔持ちの課長は当然のことながら社員全員が大喜びである。
 だが、なにより特筆すべきなのは、導入によって、全員の仕事の能率が格段に上がったということだろう。なにしろ今までと違い、便意をもよおしても、トイレに立つ必要が一切ないのである。これならば仕事に対する集中力が途切れることもないし、かかってきた電話に対して「今ちょっと離席していますので折り返します」などと返答することもない。これだけのことでオフィスの電話料金がかなり削減された。また、女子社員たちにとっても変化があり、トイレ内での化粧直しやおしゃべりなどということがなくなったようだ。コピーを頼もうと思って探してもどこにもいない、ということも以前はしばしばあったのだが、今では一声かけるとすぐにやってきて(ただし足首まで脱ぎ下ろしていた下着やストッキングをはき直したあとで)、作業を手伝ってくれる。まさに、なにからなにまでいいことずくめである。
 そんな中ただひとつの欠点としては、痔持ちの課長がのべつまくなしにシャワーで肛門を洗い続けているのだ。静かなオフィスの中、その途切れることのない水流音が多少耳障りである、ということくらいだ。


追記:欠点、というか、個人的に不満な点がもうひとつだけあった。オフィスに導入されたシャワー式トイレの型は、通常「洗浄」ボタンの横にあるはずの「声援」ボタンがついていないやつなのだ。物心ついてからというもの、誰からも声援を受けずに排便排尿したという経験がないので、それには少々戸惑っている。