あの日。いちばん熱かった夏。




 深夜、仕事にくたびれ果てて帰宅。食卓の上には「チンして」、と、殴り書きのメモ。最近では「食べて」と最後まで書かなくなった。シャワーを浴びたあと、発泡酒をかたわらにあたためたカレーを食う。2本目の発泡酒に手が伸びるが、「ビールは1本まで」と、常々口うるさく言われていることを思い出す。「これ『ビール』じゃねえよ」と思う。
 寝室に入ると、妻はもう深い眠りについている。いつものようにこちらに背を向けており、軽いいびきの音が聞こえる。起こしてしまわぬよう静かに隣のベッドに潜り込み、ゆっくりと目を閉じる。ところが、体は疲れきっているはずなのに、いつまでたっても一向に眠気が襲ってこない。妻のいびき。いまだ冴えたままの頭でいつしか仕事のことを考えている。仕事は以前とくらべれば、今はわりとうまくいっている。大きな不安はない。だが小さな不安は数々ある。その小さな不安ばかりが頭によぎる。老後のことを思うといっそう胸が締め付けられる。目が冴える。妻のいびき。ついに閉じていた目を開け、闇に包まれた天井をぼんやりと見上げる。そして、なぜか、それほど遠くない過去のことをふと思い出す。




「・・・20万人・・・か」




そう思わずひとりごちる、そんな夜もあるじゃない。そんなTERUもいるじゃない。