その数学者は歓喜に全身を震わせていた。有史以降誰一人解き明かすことなかったその命題に、今夜彼が究極の解を見出したのだ。数学者がこの命題に取り組んで早30年。妻もめとらず身辺にも構うことなく、彼はこの命題に一心不乱に取り組み続けた。時が経つに連れ、かつて「仲間」と呼ばれた者たちも彼の命題に対する異常な情熱を疎み、一人、そしてまた一人と彼の元を離れていった。陰では「あいつ狂ってるよ」と嘲笑されていることを彼は知っていた。だがしかし、今夜彼は遂に命題に完全なる回答をもたらした。これで今まで俺を嘲笑ってきた奴ら全員の鼻を明かしてやる。彼は胸に勲章を飾り、歴史の教科書に載った自分の姿を思い描いた。・・・いかん。ちょっと興奮しすぎたようだ。彼は苦笑いしながら、傍らに置いてあるグラス一杯のオードムーゲを飲み干した。ああ、明日世界は変わるのだ。いつものように極彩色が彼を包んだ。