朝・パ・ド・ドゥ


満員電車ではいつも、痴漢冤罪を避けるため両腕は腕組みもしくはバンザイ。両手を挙げたまま人波に揉まれながら、アタシは孤独なバレリーナ。伏し目がちな隣のおやじもアタシにつられてくるくる回る。クラリーノトゥシューズでふたり、くるくるくるくるくるくる回る。




1.5星


ヌーヴェル・キュイジーヌのいちばんかわいいところは「キュイ」の部分であって、ひらがなで「きゅい」と書くとなおいっそうかわいい。どうせならばヌーヴェル・キュイジーヌの「きゅい」だけを20個集めて、炭火で軽くあぶり、表面の色が軽く変わったところで冷水にさらし、薄く切り分けておろしポン酢でお召し上がりになりたい。そしてその意外なほどの生臭さに閉口したい。ものである。




HEROES


俺がある日目覚めてしまった能力は、なぜか「小指が練乳味になる」という能力。この能力がどのように世界を滅ぼし、あるいは世界を救い、はたまたそのどちらにも関与しないか、そんなの俺みたいな凡人の預かり知るところではない。俺はただこの能力と自らの運命を静かに受け入れるだけだ。なに?俺がいつもいらいらして見える?そんな役に立たない(であろう)能力に目覚めてしまったからじゃないかって?ちがう。もう一度言う。ちがうちがうそうじゃ、そうじゃない。俺がいらいらしているとするならば、それはたぶん、練乳味になるのが手の小指じゃなくて足の小指だってことだ。あんなに甘くておいしいものが、よりによって足の小指なんかに。なんだったら風呂上がりにでも一度やってみたらいい。そしておまえらは足の小指がいかにくわえにくいかを知ることになるだろう。その時おまえらは俺のいらいらの源を知るのだ。