「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 よーし、きょうもあっちの飛行機をこっちに、こっちの飛行機をあっちに、がんばってずいずい誘導しちゃうぞぉ〜!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 あっ、あっちとこっちが異常に急接近してる!このままじゃ正面衝突しちゃうよ!よーし、ここがぼくの腕の見せ所だな!AS106!AS106!高度を400フィート下げて左13時の方向へ急旋回して!DR602!DR602!進路そのままで500フィート上昇して!・・・いいぞいいぞ、そのままそのまま・・・よーし、やったー!なんとか事故だけは防いだぞ!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 こんなに飛行機の誘導が上手なぼくだけど、実を言うと、夫婦仲のコントロールはあまりうまくいってないんだよね・・・。もしかしたら妻のやつ、三丁目の酒屋の主人と・・・いやいや今はそんなこと言ってる場合じゃない!仕事中仕事中!KP408!周波数108.70で管制塔からの指示待ってて!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 ・・・妻のこともそうなんだけどさ、やっぱこの仕事ってストレスがすっごくたまっちゃうんだよね。ぼくの誘導ひとつに乗客の皆様の命がかかってるわけだからさ・・・。でもさ・・・、ときには思うんだよね。「カタストロフィー願望」っていうか・・・。さっきもさ、飛行機をさ、左に旋回するトコを「右!」なんて言ってみたく・・・おっとー、あぶない!なんか今ぼくすっごくあぶないこと言いかけたみたい!メンゴ!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 ・・・で、やっぱ妻なんだけどさ、なんかさ、最近態度がどことなくよそよそしくってさ、そんでさ、なぜか缶ビールの配達の回数が異常に増えてんだよね・・・。ほら、ウチの妻もそうだし、ぼくって酒あんま飲まないじゃない?なのにあいつなぜかケースでビール買ってんだよね・・・。それに酒屋の主人もさ、なんつーか、妻好みのさ、ちょっと三田村邦彦風の甘いマスクでさ・・・・。ああ、・・・でもなあ・・・あー、やっぱ・・・・・・・・・・いや、でも・・・・・・・・・・・・っと、いやー、ごめんごめん、ちょっと今ぼく自分の世界に入っちゃったみたい!てへ!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 ・・・いや、やっぱどう考えてもおかしい。あのビールの量は尋常じゃない。そういやこないだ玄関先で酒屋に出くわしたときだって、二人ともなんか様子が変だったしな。なーんか雰囲気が妙によそよそしいしさ。・・・くそっ・・・やっぱりあいつ、酒屋と・・・ちきしょう・・・あの野郎・・・妻の管制官はこの俺だぞ?夜の飛行ルートはおまえが誘導してんのか・・・?してんのか?してるか?・・・してるな。うん、してる。ぜったいしてる。まちがいない、確実にしてる!あの上気した顔!よそよそしい態度!不自然なほどその場を去りたがってた酒屋!まちがいない!ぜったいしてる!ちきしょう!ガッデム!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」


 うるせえ!勝手に飛んでろ!知るかボケ!こちとらそんな場合じゃねえんだよ!・・・わかったわかった、おまえとおまえとおまえ右旋回!おまえとおまえとおまえ左旋回!全員高度5000メートルでそのままトリオでぶつかれ!


「♪ぼ〜くは 航〜空〜管制〜官!」