寝相〜ヌーヴェル・ヴァーグ〜


 便意を覚えるととりあえず本を1冊持ってトイレに駆け込み便座に腰を下ろす。そういう習慣である。っそもそも排便中の読書、それには東海林さだお星新一などの短いエッセイやショート・ショートが最適であるのは自明の理である。長編など読んでしまって先が気になってトイレから出られないし、挙げ句の果てに先を読みたいがためにトイレに無理くり入るなんて事態を招くやもしれぬ。それでは卵が先か鶏が先か、そもそも天使なのか悪魔なのか、もっと言えば田中ロウマパッション屋良くらいぱっと見区別がつかない。いや、「区別がつかない」関係ない。「ブラジャーをつけてる池畑慎之介」くらいようわからんくなってくる。それもあまり関係ない。いずれにせよ、「トイレで長編小説、とりわけサスペンスものは読むべからず」。そうこの胸に信じて53年生きてきた。
 が、しかし、である。先日その禁を破って長編小説に手を出してしまった。それもプルースト失われた時を求めて」。あの(傍点筆者)「失われた時を求めて」である。いっときの気の迷いといえど、よりにもよってどえらいヤツに手を出してしまったものである。が、そこは乗りかかった船、一日におけるわずかばかりの排便時間を利用し、毎日ちくちくと読み進めている。
 ちなみに「小難しい」と評判の1冊ではあるが、意外に簡潔で読みやすいとの感想を抱いた。明日からはやっと第2部である。これから派手な銃撃戦が始まるのであろうか。ヒロインの特殊能力は無重力状態ではどんな効果を生むのか。第1部で死んだと思われた隻腕の素浪人だが、実はあのミゼットレスラーのおかげで生きていたというのは確実であろう。わかりやすい伏線が随所に張ってある。噂では、今後幼児虐待中のマイケル・ジャクソンの姿が克明に描かれるとのことなので、期待感は更に高まる。ああ明日の排便が楽しみである。またそれとともに、先に書いた「田中ロウマパッション屋良」のくだりはまったく不要だったことに今更ながら気付いた。それよりも「ウェンツとナイス橋本」のほうがよかったのではなかろうか。