予兆、あるいは


 便意を覚えたので慌ただしくトイレに入り、ベルトを外す手ももどかしく、入り口に向かう形で便座に腰を下ろす。滞りなく用を済ました瞬間ふと目の端に緑がよぎる。何気なくトイレの隅に眼をやると、ドアの脇、入るときには死角となって目に入りにくい位置、そこに一本のサンポールが。
 確か我が家では、サンポールはトイレブラシの横、つまりタンクの脇に置いてあるはずではないか。そう思って便座に腰掛けたまま振り向くと、そこにはやはりいつものようにサンポール。つまりトイレの二隅にサンポールが。
 いったいこれは・・・?
 たとえば、部屋の四隅にサンポール。これは平安時代より伝わる、トイレに巣くう怨霊たちを成仏させるための由緒あるまじないである。
 たとえば、部屋の三隅にサンポール。それなら「マイ・バースデイ」でもお馴染み、アイツのハートをゲット☆するおまじないとしてあまねく知られている。
 たとえば、部屋の隅にサンポール。これは便器に座って読書をしたときに、通勤時より約1.2倍速読できるようになるためのまじないである。
 ところが部屋の二隅にサンポール。これだけは古今東西の文献を漁ってみても、まったくその意図が掴めないのである。ただ肌で感じるのは、これは必ずやよくない兆候である、ということだけである。なにかしら強大な「悪意」を感じる。
 さて、「トイレの二隅にサンポール」のまじないをかけられてしまった今となっては、我が身に危険が及ぶのは避けられない状況であるやもしれぬ。ともすれば、この更新が準決勝最後の更新となってしまうかもしれない。そこで、この歌を遺書代わりに残しておくこととする。

もしオレが戦場で死んだら
故郷の皆に伝えて欲しい
オレはベストを尽くしたと


もしオレが戦場で死んだら
可愛いあの娘に伝えて欲しい
楽しい思い出抱いていくと


もしオレが戦場で死んだら
親しい友に伝えて欲しい
銃に向かってオレは死んだと


もしオレが戦場で死んだら
オレの墓に名前はいらない
ただ一人の男が生き闘い
死んでいったと
刻んで欲しい


 バキとの戦いを終えたガイアとレンジャーたちが食事中に合唱した歌である。