届かなかった手紙
おひさしぶり。元気ですか。生活は順調ですか?僕もこっちでなんとかやってます。正月にはこっちに帰ってくるのかな?ひさしぶりに会いたいな。
最近君のこと、それからあの頃のことをよく想い出すんだ。なぜだろう?なぜかはわからない。ただ年を取っただけなのかもしれないね。でも今でも時々思うんだ。あのとき僕がもうちょっとうまくやっていたら、僕たちの未来もずいぶん変わったんじゃないかってね。あの頃の僕は若すぎて、君にまっすぐぶつかることしかできなかった。今思うとおかしなくらいまっすぐだった。たぶん今ならもっとうまくやれるんだろうけどね。若さって怖いね。君が僕じゃなくて彼を選んだのも当然さ。確かに当時の僕は嫉妬にかられたけれど、今ではもうそれも笑い話だよ。
ああ、昔話を始めると長くなりそうだからこのへんで筆を置くことにするよ。でもひとつだけ言わせてくれ。あの頃の君は本当に素敵だった。それだけは真実だよ。それでは。また会えることを願って。
卵子へ
受精できなかったひとりの精子より
余談だが、あの頃受精した卵子は今では中小企業の係長になっており、最近部下のOLとの不倫関係が嫁にばれて事態が泥沼化しているという。