家に帰ったら父親が寺田農だった。今日はそのことについて考えてみたい。
 まず、農は必ず犯人だ。2時間ドラマでは当初から怪しい社長役で現れる。ドラマの最後、名取裕子を岸壁に追いつめるのは必ず農だ。だが、たまに1時間20分くらいで殺されるときがある。そんなときだって、農は真犯人の父親の会社を倒産に追い込んで自殺させたり、もしくは麻薬の密輸にかかわっていたりと、いろいろと裏で悪いことをしている。「必ず犯人。またはきまって1時間20分過ぎには殺される」父親。そんな父親が居間のソファーに座って、巨人戦を見ながら晩酌を楽しんでいるのだ。
 そして農は意外と性に奔放だ。ベッドシーンも厭わない。故に、家族揃っての夕食中にテレビでベッドシーンが流れても、世の父親のようにわざとらしく咳払いをすることもない。逆に画面をじっくり見つめて、次回作のベッドシーンに対してのイメトレをしているかもしれない。また、テレビのベッドシーンの男役が、実は農である場合だってある。そんなとき農はいかにこのベッドシーンが大変だったかを、家族全員の前で滔々と語るだろう。ときにはジェスチャーつきで。
 農は夜中あなたの部屋のドアを開け、ぐっすり眠ったあなたの寝顔を薄く微笑みながら見つめるだろう。だけどそんな農は必ず犯人なのだ。犯人に決まっているのだ。徐々に名取裕子が事件の真相に迫っている。気づけ仮初めの家族団欒に。