電話してみた


「もしもし?俺やけど」
「・・・ん?なんや、電話なんて珍しいな」
「・・・工場のほう最近どう?」
「まあ、ぼちぼちやなあ。そんでもどこもかしこも不景気やからなあ」
「まあそやろな」
「・・で?話それだけか?」
「いや、違うけど」
「なんや?金やったらあれへんで?」
「ちゃうがな」
「ほななんや?」
「・・・あのな、カオリさんからコミックバトンまわってきてんけど」
「なんや『バトン』て?あと『カオリさん』て誰や?」
「・・・説明するメンドが臭いから、いまはとりあえず俺の質問に答えてくれや」
「どんな質問や?」
「漫画に関する質問」
「わし漫画なんて読めへんがな」
「知ってるけどな、でもまあ答えてくれたらええねん」
「んー、ようわからんけど答えたらええねんな?」
「うん」
「んじゃちゃっちゃと訊けや」
「いくで?」
「おう」
「・・・えーと、まず、『本棚に入ってる漫画単行本の冊数 』は?」
「1冊」
「えっ?オヤジ漫画持ってんの!?いま『読めへん』ゆうたばっかやんけ」
「なんやしらんけど去年の忘年会で、なんかの賞品でもろたんや」
「ちなみになんてタイトル?」
「ちょう待っとけ。見てくるわ」


(1分経過)


「・・・えーと、なんやろ・・・。と・・・とくめい?かかりちょうただのひとし1かん」
「・・・・・・」
「やな?」
「・・・うん」
「読んでへんけどな」
「・・・次の質問」
「おう」
「『今面白い漫画 』はなに?」
「せやから、わし漫画なんて読めへんがな」
「・・・まあそやろな」
「おう」
「次の質問。『最後に買った漫画 』は?」
「せやから漫画なんて買えへんっちゅーとんねん」
「・・・次の質問。『よく読む、または特別な思い入れのある5つの漫画 』は?」
「あ!そいでもおとうちゃんあれ好きやったで?」
「お、なんかあんの?」
「えーと、なんやったかいなあ・・・?は、は、『はだしのゲン』!」
「あー、オヤジ広島生まれやからなあ」
「あれはええわ」
「なるほどー。んじゃ次。最後」
「おう」
「『次にバトンをまわすひと5人』」
「・・・せやから『バトン』てなんやねん?」
「ええから!次誰かにまわさなあかんねん!」
「ほうか。んじゃ誰にまわそ?」
「そんなもんオヤジが決めれや」
「・・・んじゃ・・・鈴木」
「誰やそれ?」
「こないだおまえら祝いもろたやろ?あの鈴木や。ワシの定時制んときの後輩」
「あー」
「おまえらちゃんと返ししたか?」
「やったやった。東急から送っといた。それから?」
「・・・んで・・・中島さん」
「誰?」
「隣の」
「うんうん」
「わしら留守のときはばあちゃん見てもらってるさかいな?」
「あー、世話なっとるからなあ」
「ばあちゃん風呂まで入れてもろて」
「うん。次は?」
「あとは・・・ソムチャイくん」
「・・・誰?」
「去年から工場に来てもろてるタイの子」
「なるほど」
「よう働くええ子やでぇ?」
「ふうん。次は?」
「駅前のスナック『美波』のママ」
「まだそんなトコ行ってんのかいな!?」
「ええやんけおとうちゃんかてまだまだ現役やねんから」
「・・・まあええわ。最後は?」
「んー・・・とりあえずおかあちゃんにしとこか?」
「うん。んじゃそれでええわ」
「それでええのんか?」
「うん。んじゃ鈴木さんと中島さんとサムチャイさんと」
「サムチャイちがうソムチャイや」
「・・・ソムチャイさんと『美波』のママと、あとオフクロな?」
「おう」
「んじゃその5人にバトンまわしといて」
「・・・お、おう。なんやわからんけどまわしとくわ。あと、あれやでおまえ。たまには実家帰って来いや?」
「あーはいはいわかったわかった。んじゃ」
「おかあちゃんも心配してるぞ?」
「わーかったて!」
「最近おとうちゃんも肩痛ぁてなあ・・・」
「んじゃな!」


 がちゃっ!つー、つー、つー・・・